ギリシア神話に登場するメドゥーサはその目を見た者を石に変える力を持っていると言われる。まるでそのメドゥーサによって空にかかる虹が石に変えられてしまったかのような完全なアーチ状の石の橋がユタ州南部、パウエル湖の畔、ナバホ族が聖なる山と崇めるNavajo Mountain(ナバホ山)の麓に立っている。その名をRainbow Bridge(レインボー・ブリッジ)と呼ばれるこの石の橋は、ナバホ族やパイユート族などにとって神聖な場所であり、今日では国定公園として保護を受けている。
岩石に穴が空き、橋状になったものはアーチと呼ばれ、
アーチズ国立公園ではその多くを見ることができるが、レインボー・ブリッジを含むブリッジは、アーチの中でも水の浸食作用により穴が形成されたものを言う。高さは290フィート(88m)で、自由の女神がすっぽりその下に入る高さだ。幅は277フィート(84m)、頂点部分は厚さ42フィート(13m)、幅33フィート(10m)で、かつては観光客がその上を歩いたと言う。その規模は知られている天然の橋の中で世界最大と言われる。
レインボー・ブリッジ
レインボー・ブリッジがある地帯は、2億年より前に内海で蓄積された赤土によって形成されたカイエンタ砂岩をベースに、その後に続いた非常に乾燥した気候の下で形成された砂丘により組成されたナバホ砂岩が堆積した。これらの砂岩がその後の堆積により強く固められた後、5,500万年ほど前にこの地域一帯が大きく隆起し、これに伴い山岳、急流の河川が形成された。急流の力を得た河川は峡谷を刻みながら、蛇行してコロラド川に注ぎ込んだ。レインボー・ブリッジが形成された場所は、かつては川が大きく湾曲する部分であった。長年の水の浸食作用により、岩石中の柔らかいナバホ砂岩が削り取られ、ついには穴があき、その穴を流れる川の水によってさらに穴が拡大してブリッジが形成された。現在でも川底が水の浸食作用により削られており、レインボー・ブリッジはどんどん高くなっているという。
レインボー・ブリッジは、長らくの間、幻の石の橋であった。1909年にユタ大学学長Byron Cummings氏率いる探検隊とW.B. Douglas連邦政府測量技師率いる探検隊が同時に伝説的な石の橋を目指した。いずれが先に到達したかは現在でも争いがあるが、その話が広まるや否や翌年の1910年に
タフツ大統領によって国定公園に指定された。その後、この伝説の石の橋を一目見たいと観光客が訪れたが、彼らは何日もの長い間かけて荒涼とした岩山を乗り越える必要があった。そのような苦難の上、ここを訪れた人々の中には、セオドア・ルーズベルト前大統領も含まれていた。1963年に
グレン峡谷ダムが完成してからは、コロラド川が刻んだ深い峡谷を水が満たし、レインボー・ブリッジのあるBridge Canyon(ブリッジ峡谷)にもパウエル湖よりアクセスすることが可能となった。現在レインボー・ブリッジにアクセスするにはPage(ページ)の町からツアーをとることとなる。
ブリッジ峡谷と船着き場
しかし、なおこの石の橋は、原住民にとって神聖な場所であり、石の下をくぐることや石の上に乗ることはこの神聖さを汚す行為であるとされているのでくれぐれも慎みたい。
(国立公園局のHP)