ロッキー山脈の西側を南北に走るユタ州の
Wasatch Mountains(ワサッチ山脈)とカリフォルニア州のシエラネバダ山脈の間にGreat Basin(グレート・ベイズン)と呼ばれる巨大な盆地が横たわっている。ネバダ州はほぼすっぽりこの巨大な盆地に飲み込まれてしまう。この盆地を流れる川は、メキシコ湾にも太平洋にも到達することはない。砂漠の灼熱で濃縮された塩水の湖沼に流れ込むか、途中で途絶えるかどちらかである。この巨大盆地の中を東西に
US6号線&50号線が走る。ところどころ南北に山の峰が走るが、その間の乾燥した土地にはセージの茂みしか見られず、ときどき枯れたセージが道路を転がり過ぎていく。人家はほとんど見られず、ところどころ朽ち果てた廃墟が点在する。交通量はほとんどなく、空には高くはげたかが舞う。US6号線&50号線は、私が通ったアメリカの道路の中で最も寂しい道路だ。この寂しい砂漠地帯にオアシスのように存在するのが、Great Basin National Park(グレート・ベイズン国立公園)である。
今から5.6億年前、浅い海の底だったこの地方には、砂、泥、海洋生物の死骸などが堆積し、砂岩、頁岩、石灰岩などを形成していった。2億年前に上昇運動により、表面が折り重なりあい、地下からはマグマの上昇が生じ、堆積岩を硬く変質させていった。3千万年前にこの地層は東西に引っ張られ、盆地を形成するとともに、硬いところは山地として残った。グレート・ベイズン国立公園のあるSouth Snake Range(サウス・スネーク尾根)もこうして出来上がり、氷河期に氷河により山々は研ぎ澄まされた。氷河が解けた水は盆地に残り、その一部がGreat Salt Lake(グレート・ソルト・レーク)として残っている。山々は浸食活動で削られ、削られた砂が沖積扇状地として盆地に堆積していき、グレート・ベイズン国立公園は砂漠の中の島のように残され、今日の風景が形成された。
グレート・ベイズン国立公園には、サウス・スネーク尾根の峰々が立ち並び、最も高いWheeler Peak(ウィーラー・ピーク)は、3,982mに達し、その山肌には今なお氷河が残っている。Wheeler Peak Scenic Drive(ウィーラー・ピーク景観道路)がビジターセンターから3,400フィート(1,020m)を駆け上り、ウィーラー・ピークの麓(3,013m)、丁度木々がなくなる辺り(樹木限界線)まで連れていってくれる。12マイル(19km)の道のりだ。
ウィーラー・ピーク
Rock Glacier(ロック氷河)
3,000mを過ぎた辺りからは、夏でも雪が降るツンドラ地帯となり、短い夏、強い風、薄い空気、強い紫外線など植物の生育に困難な条件が揃っており、木々は生育を妨げられ盆栽のようになってしまう。このように厳しい環境の中で、ブリスルコーン・パインはしぶとく生き続け、樹齢5,000年に達するものもある。このブリスルコーン・パインは一見生きているのか死んでいるのかわからないほど枯れ木の雰囲気を漂わせているが、樹木限界線に近いところに生えた木ほど長生きするという。松脂の分泌が進み、生育も遅くなる代わりに、寿命も延びるようだ。
ブリスルコーン・パイン(推定樹齢3100-3300年)
サウス・スネーク尾根の峰々に加えて、この公園をユニークにしているのが、洞窟の存在である。1885年にAbsalom Lehman(アブサロム・リーマン)によって発見されたLehaman Cave(リーマン洞窟)は、小さな洞窟であるが、バラエティーに富んだ美しい洞窟である。弱酸性の雨水が地上から染み込み太古の石灰岩、大理石の層を溶かし、この洞窟を形づくった。この洞窟にはShields(シールド)と呼ばれる珍しい鍾乳石が見ものとなっている。
Gothic Palace(ゴシック宮殿)
シールド(Grand Palace(大宮殿))
また、公園の南部には、Lexington Arch(レキシントン・アーチ)と言われるアーチ橋が見られる。
アーチズ国立公園などで見られるアーチ橋は通常砂岩が風化してできたものだが、レキシントン・アーチは石灰岩が風化してできた珍しいアーチ橋である。
レキシントン・アーチ
公園の奥のほうに入るといくつかの湖があり、山肌とのコントラストが美しく、まるでロッキー山脈にいるかのような錯覚を覚える。ロッキー山脈の国立公園ほどは混んでいないので、ハイカーにとっては穴場といえるかもしれない。
Teresa Lake(テレサ湖)
Stella Lake(ステラ湖)
Baker Lake(ベーカー湖)
Johnson Lake(ジョンソン湖)
なお、ネバダをドライブする際には、ガソリンスタンドがあまりないので、給油はこまめに行っておこう。
(国立公園局のHP)
(国立公園局の地図)(PDF)
グレート・ベイズンのきれいな写真は、
ここで見ることができます。