洞窟で迷った場合には、指を湿らせて空気にかざし、風の流れをつかむ、耳を澄まして風の音を聞くとよいと言われる。風は、外から空気が入ってきているしるしだ。この風の音を頼りに逆に発見された洞窟がある。1881年、Jesse Bingham(ジェス・ビンガム)とTom Bingham(トム・ビンガム)の兄弟がブラックヒルの山中で口笛のような風の音を聞いた。音の鳴る方に近づいてみると、ポッカリと穴が開いていた。ジェスが穴に顔を近づけると、ジェスの帽子を吹き飛ばした。そこは洞窟への入り口であった。しかもこれが唯一の自然にできた入り口であった。風は洞窟の中と外との気圧の差から生まれたものであった。その洞窟は、その発見に由来し、Wind Cave(ウィンド・ケイブ:風の洞窟)と呼ばれるようになった。後に1903年に国立公園の指定を受けることとなる洞窟である。洞窟としては初めての国立公園であった。しかし、洞窟の様子が明らかとなるには、一人の若者を待たなければならない。彼の名前は、Alvin McDonald(アルビン・マクドナルド)。マクドナルドは、1890年から1893年にかけて、ほぼ3年間毎日のようにシステマティックに洞窟を探検し、洞窟内の通路や部屋、フォーメーションを発見し、記録に残していった。彼が探しつづけてもトンネルの行く果てはわからなかった。それもそのはず。ウインド洞窟は、わかっているだけで、総延長124マイル(200km)で、全米で3番目に長い洞窟である(1番は、
マンモス洞窟)。
ビンガム兄弟が発見した入り口
洞窟ができるには、石灰岩又は大理石と水の存在が必要である。ウィンド洞窟のあった場所は、3.5億年前は暖かい浅い海で貝殻の粉が積もっていた。海が引いてしまった後、貝殻の粉は石灰岩と石膏になった。3.2億年前に、石膏が水に溶け、方解石と硫黄に分解され、硫黄分が水に溶けて石灰岩を溶かし、オリジナルの洞窟を形成していった。その後、3億年前には、再び海がやって来て、砂岩、石灰岩、粘土などが洞窟を再び埋めていった。その後の2.4億年の間に、海の満ち引きがあり、浸食と堆積が繰り返されていった。4,000-6,000万年前にロッキー山脈の造山運動とともにブラックヒルも隆起し、この隆起に伴い、石灰岩にひびが生じていった。そのひびから水が浸透していき、今の洞窟を形成していった。
ウィンド洞窟は、非常にユニークな洞窟である。第1に、その組成が古い洞窟である点にある。ウィンド洞窟の最も古い地層は3.2億年前に遡るが、このように古い組成の洞窟は珍しい。第2に石筍、鍾乳石といった洞窟に標準的なフォーメーションがあまりなく、世界的にも貴重なBoxwork(ボックスワーク)と呼ばれる格子状のフォーメーションが見られる点にある。ちょうど蜂の巣が岩に張り付いたように見える。世界で見られるボックスワークのほとんどがこの洞窟に集中しているという。
ボックスワーク
このほかにも、Frostwork(フロストワーク)、
Flowstone(フローストーン)などの珍しいフォーメーションを見ることができる。
フロストワーク
しかし、Wind Cave National Park(ウィンド洞窟国立公園)は、洞窟だけではない。むしろ名前をブラックヒル国立公園とした方がよいかもしれない、敷地は、洞窟が占めるのは一部分で、大部分はプレーリーや松林で構成されており、野生動物が豊富である。ここにもバッファローやプレーリードッグが生息している。ここのバッファローは、元々はニューヨークのブロンクス動物園で飼育していたものを放ったものであるとのこと。このほかにもエルクやプロングホーンなどが生息しており、大陸横断鉄道ができる前のプレーリーの生態系がここには保存されている。その様子は、イエローストーン国立公園のラマー谷やヘイデン谷を思い起こさせる。
世界でも珍しいフォーメーションが見られる洞窟と西部開拓以前のワイルド・ウェストの自然が一緒になった国立公園は、アメリカの西部ならではの国立公園といえるだろう。
(国立公園局のHP)
(国立公園局の地図)(PDF)