グランド・キャニオンからコロラド川を上流に上るとすぐに
Glen Canyon(グレン・キャニオン)と呼ばれる峡谷がある。ここはグランド・キャニオンと同様に1100万年前のコロラド高原の隆起により急傾斜となったコロラド川が深く刻み込んだ峡谷だが、グレン・キャニオン・ダムにより堰き止められ、コロラド川の水が満ち溢れ、Lake Powell(パウエル湖)というアメリカ西南部屈指のウォーター・レクリエーションの場所となっている。ボート、カヤック、釣りなどのウォーター・レクリエーションのほかにも、さらに上流のほうではバックパック・ハイキングも楽しめる場所となっている。その区域の中には別の国立公園ユニットである
Rainbow Bridge National Monument(レインボー・ブリッジ国定公園)というアメリカで最も美しいと言われる自然が造った石のアーチ橋があり、そのツアーの際に、パウエル湖の景色を楽しむのが一般的な楽しみ方であろう。
パウエル湖
グレン峡谷の風景はどれも太陽で焦がされたような赤土色の巨岩で構成されている。岩石に含まれる鉄分が酸化し、赤く染まったものだ。赤土の峡谷を良く見ると水面近くの部分が白くなっているのが見てとれる。白と赤の境界はかつての最高水位を表すとのこと。赤と白のコントラストは、まるで日焼けしている部分とそうでない部分のように見える。これは、水に浸っている間に岩中の炭酸カルシウムが染み出し、水が退潮した後、表面に定着したためだという。
この地を最初に訪れたヨーロッパ人は、パイプ・スプリングと同様、Antanasio Dominguez(アンタナシオ・ドミンゲス)とSilvestre Velez de Escalante(シルベスター・ヴァレス・デ・エスカランテ)である。彼らは、1776年10月にサンタフェからカリフォルニアへのルートの探索の帰り道にコロラド川に行き着き、Wahweap(ワーウィープ)マリーナの辺りで宿泊しながら、コロラド川を渡る場所を探し、現在のPadre Bay(パドレ湾)の辺りの浅瀬を南岸に渡った。彼らが渡った場所、Crossing of the Fathers(神父が渡った場所)は、現在では湖の底になっている。
パドレ湾及びパドレ・ビュート
そのおよそ100年後、
John Wesley Powell(ジョン・ウェズリー・パウエル)少佐は、コロラド川流域の地図を作成し、付近の地勢を観察するため、1869年5月に、ワイオミング州のGreen River(グリーン川)を出発し、コロラド川を下って、7月28日にグレン峡谷に到達した。さらに、そのままグランド・キャニオンを通過し、ネバダ州まで下った。
コロラド川流域は、こうして地図が作られ、探鉱者などがやって来たが、定住には一つ問題があった。コロラド川は急流であるため徒歩で渡ることが難しいことであった。このため、モルモン教会は、
John D. Lee(ジョン・D・リー)を派遣し、グレン峡谷の入り口付近でフェリーを始めさせた。フェリーは、1873年に運航を開始し、Warren Johnson(ウォーレン・ジョンソン)が実際の運航を行った。この地域に住むナバホ族との紛争が予想されたため、翌年にはフェリー乗り場に砦が建てられ、Lee Ferry Fort(リー・フェリー砦)と呼ばれるようになった。また、リーは、17番目の妻であるEmma Lee(エンマ・リー)のために、Lonely Dell Ranch(ロンリー・デル牧場)を開設した。
リー・フェリー砦
ロンリー・デル牧場
20世紀になり、アメリカ西南部の定住者が増えると、水源や電源の確保が大きな課題となった。このため、早くからコロラド川を堰き止め、水源と電源を確保する考えが生まれたが、コロラド川流域はどこも非常に景観がすばらしいため、どこを堰き止めるのかというのは大きな問題となった。当初、コロラド川上流の
Dinosaur National Monument(ダイナソー国定公園)付近を堰き止める案が提案されたが、シエラ・クラブを始めとする環境団体の大きな反対に合い、妥協案としてグレン峡谷を堰き止める案が生まれ、その案に従い1956年にダム造成は着工された。10年の工期を経て、ダムは1966年に竣工した。満水になるのに17年を要したという。この結果、グレン峡谷のオリジナルの景観は失われてしまったが、水を豊かにたたえた湖はパウエル少佐にちなみパウエル湖と名付けられ、新たにウォーター・レクリエーションの場として生まれ変わり、現在ではGlen Canyon National Recreation Area(グレン峡谷国立レクリエーション地域)に指定されている。ダムのあるPage(ページ)の町では、大型ボートのレンタル屋さんもあり、地元の人は天気のよい日にピックアップ・トラックで乗りつけ、ボートを借りてパウエル湖でクルーズや釣りを気軽に楽しんでいる。マリーナは、この他、レクリエーション地域中ほどの、
Bullfrog(ブルフロッグ)、
Halls Crossing(ホールズ・クロッシング)、レクリエーション地域東部の
Hite(ハイト)にもあるが、グレン峡谷は、ハイト付近の景観が最も美しいと言われている。
グレン峡谷ダム
レクリエーション地域の西にあるナバホ峡谷は、ナバホ族が連邦政府からの強制退去命令から逃れるために隠れ住んだ場所であるが、ここではNavajo Tapestry(ナバホ織)と呼ばれる赤色岩に黒色の絵模様が混じり、まるで巨大な岩のキャンバスに墨絵を描いたような模様を観察することができる。レクリエーション地域の中ほどのエスカランテ峡谷は、アクセスが限られるが、数多くのアーチ橋が存在する秘境であるため、バックパック・ハイカーの人気の場所となっている。レクリエーション地域東端のOrange Cliffs(オレンジ断崖)は
キャニオンランド国立公園に続く絶景の場所で、バックパック・ハイカーの人気を博している。
ナバホ織(龍が見えるか?)
(国立公園局のHP)
(国立公園局の地図)(PDF)
グレン峡谷/パウエル湖のきれいな写真は、
ここにあります。