今まで訪れたアメリカの国立公園で一番よかったところはどこかと聞かれることがある。そのときには、いつもYellowstone National Park(イエローストーン国立公園)が一番よかったと答えている。イエローストーンは、私にとって国立公園の王様のような存在だ。イエローストーンのどこがよいかと聞かれると、なかなか一口で答えるのは難しいが、イエローストーンは事実上4つの国立公園が1つになったような公園で、どこの国立公園にもないものがイエローストーンにはあるからと答えている。4つの公園というのは、イエローストーンを十字に区切ると、南西、北西、北東、南東でそれぞれ違う特色のある地域が形成されているからだ。①南西に位置するのは、Old Faithful(オールド・フェイスフル)を中心とする間欠泉の公園、②北西に位置するのは、Mammoth Hot Springs(マンモス・ホット・スプリングス)を中心とする石灰岩の地層、③北東に位置するのは、美しい滝や野生動物が豊富な谷、④南東に位置するのは、ボートや釣りが楽しめるYellowstone Lake(イエローストーン湖)と分けることができるだろう。①と②は、火山性活動の一環なので、①と②をくくり、3つに分けることもできるだろう。他の国立公園で見ることができないものは、間欠泉と豊富な野生動物、特にバッファローの生息数は抜きん出ている。1872年にアメリカ最初の「国立公園」として指定されたのには、それなりの理由がある。3,472平方マイル(8,987平方キロ)の広さを有し、48州では2番目に大きな国立公園であり、見るべき場所も数多くあり、とても1日では周れない。
イエローストーンは、火山活動により成り立っている国立公園である。過去、およそ200万年前、120万年前、60万年前に大規模な噴火を起こしており、現在では火山らしきものが見られないのは、過去の大噴火で大量の火山灰、軽石などを放出して崩壊し、今では28マイル(45km)×47マイル(75km)の巨大なカルデラを形成しているためである。阿蘇山のカルデラが18km×25kmなのでその巨大さがわかるだろう。地下のマグマは現在もアクティブで、様々な地上現象を引き起こしている。火山性の地震もたびたび生じている。
間欠泉、ホット・スプリング、噴気孔、Mudpot(泥水泉)などの熱水活動は10,000箇所以上を数え、全世界の熱水活動のおよそ半数がこのイエローストーンに集結しており、間欠泉は300以上数えられており、全世界の間欠泉のおよそ60%がこのイエローストーンに集中している。地下のマグマによって地下10,000フィート(3000m)で200Cの高温に熱せられた地下水が圧力が高まり、地上へと上昇し、様々な熱水現象を生んでいる。間欠泉の場合には、高温高圧の地下水が流紋岩の層で一旦たまり、このとき流紋岩からケイ石が水に溶け出してその先の地上への抜け道の壁に付着し、抜け道を極めて細くしてしまう。このため、地下水の圧力はさらに急激に高まり、地上に達する頃には非常に高温、高圧の状態となる。そして地上に達すると急激に圧力が下がり、体積が急激に拡張し、噴水のように噴出す仕掛けとなっている。高温に熱せられた地下水の圧力が徐々に下がって地上に出て行く場合には、ホット・スプリングとなる。水分が少ない場合には、地下で水蒸気と化し、噴気孔から水蒸気として出てくる。地下水が硫化水素と結びつく場合には、硫酸を形成し、地下の岩石を溶かし、地上に出てくるときには泥水泉を形成する。
間欠泉は、オールド・フェイスフルから北にNorris Geyser Basin(ノリス間欠泉盆地)に至る各所で見ることができる。オールド・フェイスフルは、イエローストーンの看板間欠泉で、その定期的な噴水から名前がついている。現在では平均92分の周期で噴水しているが、間隔は45分から110分までバラツキがあるようだ。噴水の高さは100から180フィート(30-55m)にのぼり、およそ1分半から5分間継続する。
オールドフェイスフル
オールド・フェイスフルのあるUpper Geyser Basin(上流間欠泉盆地)には、
Castle(キャッスル)、Grand(グランド)、
Daisy(デイジー)、
Riverside(リバーサイド)の4つ周期的に噴水する間欠泉がある。小さな間欠泉がいくつもあり、前を歩いている途中で突然噴水しないか、少しスリルがある。
グランド間欠泉
また数々のホット・スプリングがあり、中でも有名なのは、トレールの一番先にあるMorning Glory(モーニング・グローリー:朝顔)と呼ばれるものだ。
モーニング・グローリー
また、北に向けて、
Midway Geyser Basin(中間間欠泉盆地)、
Lower Geyser Basin(下流間欠泉盆地)、最も古く最も熱い
ノリス間欠泉盆地と間欠泉の見所が続いている。ノリス間欠泉盆地にある
Steamboat Geyser(スティームボート間欠泉)は、300-400フィート(90-120m)吹き上げた記録が残っている。
その先さらに北に車を進めるとマンモス・ホット・スプリングスに到着する。ここでは、Mammoth Terraces(マンモス・テラス)と呼ばれる石灰岩の白色のテラスのような地層を見ることができる。地下水が熱せられる際にマグマ室か漏出する二酸化炭素と結びつき弱酸性の水となる。これが地中の石灰岩を溶かし、地上に出る際に、二酸化炭素を放出し、石灰岩を蓄積していく。これが続くと石灰の階段地層を作っていく。ちょうど鍾乳洞と同じプロセスで、地下にではなく地上に石灰岩のフォーメーションを形成している。マンモス・ホット・スプリングスでは暖かいせいかエルクの群れが見られる。
マンモス・テラス
その先にさらに北に車を進めると丁度北緯45度のところにBoiling River(沸騰した川)と呼ばれる露天風呂がGardiner(ガーディナー)川の脇にある。水着を着ていけば、露天風呂を楽しむことができる。
自然の美を楽しみたい場合には、Canyon Village(キャニオン・ビレッジ)に車を走らせよう。ここには、イエローストーン川が刻み込んだThe Grand Canyon of the Yellowstone(イエローストーンのグランドキャニオン)と呼ばれる峡谷が20マイル(32km)にわたり続いており、この峡谷にある
Upper Falls(上流の滝)とLower Falls(下流の滝)の2重の滝は、見る人に感動を与える。特に下流の滝は、308フィート(94m)と段差もあり、とても絵になる。
下流の滝
公園内には、この他、北東部のRoosevelt Lodge(ルーズベルト・ロッジ)の近くの
Tower Fall(タワー滝)や南西部のMadison(マディソン)の近くの
Gibbon Falls(ギボン滝)や
Firehole Falls(ファイヤーホール滝)など各所で滝を見ることができる。また、ルーズベルト・ロッジの近くには
化石となった太古のレッドウッドを見ることができる。
野生動物が好きな方は、キャニオン・ビレッジの南にあるHayden Valley(ヘイデン谷)又はLamar Valley(ラマー谷)に向かおう。ここには、バッファローの大群が生息している。ときどき、道路に上がってき、道を完全にふさいでしまうこともある。巨体のバッファローが泥だまりの中にひっくり返って背中をこすりつける様はかわいらしくもある。
バッファローの群れ
エルクの雄やムースなどの大型の野生動物は、昼間よりも、朝方や夕方に現れやすい。運がよければ、グリズリー・ベアーやブラック・ベアーが見られるかもしれない。路上に止まっている他の車に注意しよう。単にエルクやバッファローを見ているだけかもしれない(これらの動物はイエローストーンでは全く珍しくなく、またかという感じになる。)が、熊かもしれない。熊の場合には、危険であることと、交通渋滞が生じることから、レンジャーが現場にいる。駐車している車が多く、レンジャーがいる場合には要注意だ。
イエローストーンは冬でも地下のマグマの活動のため、暖かく、野生動物の楽園となっている。特にエルクは、天敵もいないため、数が増えつづけ、あまりに増えすぎて餌場がなくなり、大量に餓死するというサイクルを続けていた。このため、国立公園局は、周囲の牧場主などからの激しい反対の中、1995年にカナダからオオカミを導入し、自然の摂理に従った野生動物のコントロールを行っている。オオカミは定着し、周囲の被害も少なく、このプログラムも成功しているようだ。
グランド・ティートンから
ジョン・ロックフェラー2世記念パークウェイを北上してイエローストーンに入ると、焼けただれたLodgepole Pine(ロッジポール・パイン:松の一種)の山に出くわし、驚くかもしれない。これは、1988年の大火の名残で、そのときにはイエローストーンの敷地の36%が火災の被害に遭った。国立公園局は、火災が敷地の外に出ないようにコントロールする消火活動は行ったものの、公園内では燃えるままにしておいたため、大きな批判を浴びた。しかし、このような大火は、イエローストーンでは周期的に300年に一度ほど発生しており、火災の熱がなければ、この地域の松は発芽しないことが知られており、国立公園局では自然の摂理に従った公園運営を行ったものである。今では、この松林も少しずつよみがえりつつある。
公園の南東部には、イエローストーン湖がゆったりと水をたたえ、ウォーター・レクリエーションが好きな人を待っている。イエローストーン湖は、標高7,000フィート(2,100m)以上の高地にある湖としては全米で最も広い湖である。イエローストーン湖は、深いところでは390フィート(119m)もある。この湖の深い湖底では、熱水が沸き上がってきており、丁度オールドフェイスフル周辺が湖底に沈んだような地形となっている。しかし、全体を暖めるほどにはなく、水温が低いため、水泳は禁止されている。この湖は
Cutthroat Trout(カットスロート・トラウト)という鱒の一種が豊富なことで有名で、太平洋に生息するこの鱒が大西洋側に流れる川しかもたないイエローストーン湖になぜ住んでいるのかは、謎となっている。
イエローストーン湖
このように変化に富んだイエローストーン国立公園は、国立公園の王様という気がしませんか。
(国立公園局のHP)
(国立公園局の地図)(PDF)